上海で太極拳を始めた頃先生に、
「太極拳は、
套路だけ練習しても套路はうまくならない。
推手だけ練習しても推手はうまくならない。
套路と推手を一緒に練習して初めて太極拳になる」
と言われました。
あの頃は朝から2時間基本功と套路の練習をし、
午後から公園とかで投げ飛ばされて床に叩きつけられ、
そんな套路だの推手だの考える余裕もなく、
死なないように毎日練習していただけでしたが、
最近は先生の仰られた意味がよく分かるようになりました。
推手の上達はそのまま套路の上達に直結し、套路の上達がまた推手の上達に直結するという相互作用を一層強く実感できるようになりました。
例えば、太極拳では「どれくらい力を抜くのが適切なのか」というのが一つの大きなテーマになっています。
その適切な力加減を知るのに、推手をやってみると物凄く簡単に感じる事ができます。
当然全く力を入れていないぶらぶらな状態で相手に影響がある訳がありません。
でも力を入れすぎると身体が硬くなって逆に崩されてしまったりして影響力が下がってしまいます。
なので相手にどれだけ力をかけたら、相手への影響が最大になるのかを調整します。
これは料理をする時、自分好みの味になるように、塩加減を調整していくのと同じようなものです。
味見をすれば塩加減がちょうどいいか分かります。
太極拳の力加減もこれと同じで、実際に力を相手にかけてその加減を調節すれば、
ちょうどいい力加減が分かります。
料理の場合、その料理が上手くできたかどうかを知るのに、”食べる”という簡単な検証方法があります。
食べて美味しければ正解だし、不味ければ何か間違っていたと考えるでしょう。
太極拳も同じで、一人で行なっていることが正しいのか間違っているのかを知る簡単な検証方法があれば、上達は確実に早くなります。
これが推手をやる大きなメリットの一つです。
ただちょうど良い力加減、塩加減というものは簡単に見つかる訳ではありません。
何度も何度も沢山繰り返す必要があります。
いっぱい作って、いっぱい食べて、いっぱい工夫してを繰り返して、
次第にいい塩梅になります。
ちょうど良い塩梅がわかることは容易なことではありませんが、
一人で行なっているその動作が、正しくできていると納得しながら練習できるというのは非常に充実感があります。
それはいつも正しいかどうか検証する方法があるからです。
全く味見をせずに料理を作って、どんな味になったのか分からずに誰かに食べさせるのは怖いと思います。
でも自分で味見をしながら、美味しいと納得しながら作れば、安心して誰かに食べさせることができます。
太極拳も同じように、
安心しながら練習できたら、上達が早いだけでなく、いつも練習が楽しくなります。
もっともっと多くの人が推手という検証方法を知れば、もっと楽しく上達できるし、
これから太極拳を始める人は套路と推手を同時に練習することによって、
太極拳の魅力をすぐに肌で感じられるようになります。
推手は競技のような激しいものも確かにありますが、
練習は非常に優しく繊細なものです。
年齢も性別も関係ありませんし、盲目の方もやってらっしゃいます。
料理の味見をするのと同じくらい手軽に行えます。
皆様の練習に是非取り入れてみてください。
まだやったことがない人は是非一度体験にいらしてください♪