推手世界チャンピオン王兆羽先生

5月12日に行われた王兆羽先生による推手セミナーはなんとも衝撃的でした。

簡単な概念を少し意識するだけで、誰でも推手が上達することが分かりました。

 

王兆羽先生は去年の10月に台湾で行われた、推手の世界大会にて、

全ての試合で、ほぼストレートで勝ち上がり圧倒的な実力差で優勝した怪物先生です。

台湾中から集まった強豪相手に、あまりにあっさり勝ってしまうその姿は、
戦いというよりもはや芸術だと思いました。

 

ちなみに王兆羽先生は、

鄭曼青(鄭氏太極拳創始者)

→宋志堅(第五第楊式太極拳伝人)

→呉栄輝(中華太極館董事長、中華民国太極拳総会副理事長)

→王兆羽

という太極拳の正統な流れを汲む先生でもあります。

 

そんな先生が今回東京で推手セミナーをやって頂けるということで、

セミナー前から興奮が止まりませんでした。

 

実は今回とても幸運なことに、セミナーの通訳を依頼されたため、

前日に打合せで王先生にセミナー内容を少し教えて頂けました。

1時間位の短い時間ではありましたが、直接触れながら「原体位」と「原空位」の概念、

その他太極拳、推手のポイントをご指導頂けたのは、大きな学びになりました。

しかもその説明が非常に科学的で、ロジカルなので無茶苦茶分かりやすかったです。

王先生にご説明が素晴らしいと伝えると、王先生自身の考え方が普段から科学的なんだそうです。

太極拳論(王宋岳著)は表現が曖昧で理解しにくいところがあるから、

実際に目に見えるもの、感じられるものを使って表現することを心掛けているとのことでした。

ただあそこまでロジカルにきちんと説明ができるというのは、よっぽど理解が深いのだと思いました。

 

世界大会の時の、他を全く寄せ付けない圧倒的な強さの印象が強すぎて、
どんな人なのかちょっと怖かったところがありましたが、

話してみるととても気さくで、頭脳明晰、

しかも1つ聞けば3つ返してくれるような非常に熱意のある指導者でした。

そして印象的だったのが、何を話していても批判や否定をすることが一度もなかったことでした。

武芸に秀でていると共に、誠の人格者だと思いました。

 

そんなこんなで今回のセミナーは、事前に直に教えて頂けたこと、

当日は付きっきりで、王先生が個々人にどんな時にどんなアドバイスをするのか全て聞けたこと、

そして何より、あの素晴らしい人柄に触れられたことは、大きな財産になりました。

 

当日のセミナーは午前中は套路練習にて、太極拳の基本的な考え方である、

「原体位」や「原空位」、「虚実分清」「頂頭懸」などを套路中に如何に実現するかを主に練習し、

午後がその形や動きを如何に推手で体現するかというような内容でした。

 

原体位と原空位の由来

午前中の套路練習でも午後の推手練習でも「原体位」と「原空位」という言葉がひっきりなしに出てきました。
日本ではあまり聞きなれない言葉だと思いますが、

この二つの概念が今回のセミナーの大きなテーマの一つでした。

もちろんこの二つ以外にも多くの内容がありましたが、今回のブログでは割愛させて頂きます。

ただこの二つを知っていれば、必ず皆さまの太極拳の上達に役立つと思います。

 

まずこの「原体位」と「原空位」という概念を説明する前に、

この言葉の由来を簡単に説明したいと思います。

 

まず、「原体位」と「原空位」という言葉は日本語にはないので、

それぞれ「げんたいい」と「げんくうい」と読んで頂けたら良いと思います。

セミナー時は、中国語のままで通訳してしまいましたが、

今思えば、早い段階で「げんたいい」と「げんくうい」と日本語を当ててしまえば、

もっと理解しやすかったのではと後悔しております。。

皆様すいませんでした。。

お詫びも兼ねてここで補足できればと思います。

 

話を戻して、この「原体位」と「原空位」という概念の由来は、

鄭曼青先生の唱えた「不動手」という言葉からきています。

「不動手」とは自ら手を動かすのではなく、足や腰など体の中心の動きに従って自然と手がついてくるというもの。

鄭曼青先生は「太極拳は手を出さない、手を出したら太極拳ではない」とも仰っていたようです。

そしてこの「不動手」という原理を、鄭曼青先生のお弟子さんである宋志堅先生が「原体位」と「原空位」という言葉を使って、細かく詳しくした。

と、セミナー中に説明がありました。

 

原体位と原空位の意味

では、「原体位」と「原空位」の具体的な内容について書こうと思います。

まず「原体位」と「原空位」の言葉の意味から、

 

「原体位」の”原”とは、

原状の”原”であり、”もとの状態”という意味。

”体”はそのまま身体を指し、

”位”は”位置”を指す。

よって、「原体位」とは、

「体のもとの位置やもとの状態を変えない」ことを意味します。

 

それに対し、「原空位」は、

「もとの空間の位置を変えない」ことを意味します。

 

しかし、原体位でいう体のもとの位置を変えないなんて言ったら、

石像のように固まったままどう動くの?となってしまいます。

 

相手も常に変化しているので、それは当然こちらも体の形はいつも変化していきます。

では、この体の状態を変えないというのは、一体どういう意味なんでしょうか?

 

王兆羽先生は実際の動作を見せながら、非常に明解な説明をしてくださいました。

原体位というのは、”構造”を崩さないこと。

この”構造”という言葉が原体位を理解する上で大事なキーワードになります。

 

王先生が例として示してくれたのは、片方の人が太極拳の推手を始める際の「搭手」という姿勢をとり、

もう片方の人に推してもらう。

推される方の人は、腕の力で押し返すのではなく、

相手の力を足に流せるように立ち、腕や肩や背中など一部の筋肉で耐えるのではなく、

相手の力を全体の構造で受け止める。

しかしいくら構造で受け止めると言っても、限度があるので、その限度に至ったら、

取った姿勢を崩さず(構造を崩さず)、その形のまま少しだけ飛ばされる。

こういった練習を繰り返していると、自分の構造で受け止められる力の限度を把握することができる。

そしてその限度を把握したら、今度は相手がかけてくる力がその大きさになる前に腕の力を抜き変化する。

腕の力を抜いていくと、今度は相手に推され続けて、自分の腕が胸にくっついてしまいます。

そうしたら腕以外の部分で”構造”をとり、相手の力が自分の構造を崩す限度になる前に今度は体を少し捻り

相手の力の方向を変える。当然この時も見た目の形は変わっているが”構造”は崩さない。

このような練習を繰り返し行いながら、”構造”を把握することを練習しました。

そしてこの構造自体を”原体位”と言うそうです。

 

このように力を受けていると相手になかなか崩されません。

そして受ける側だけでなく、推す側もこの原体位を意識すると、その効果の大きさに驚かされます。

上半身の構造自体は変化させずに、体重移動のみで推してみたり、股関節から体を少し傾けたりするだけで、

腕で力いっぱい推すよりも圧倒的に簡単に相手を推すことができます。

 

こればかりは、実際に推されたり引かれたりとやってみないことには、実感が得られないのですが、

これは翌週に行われた、競技推手大会でも物凄く効果的でした。

 

同じように競技推手大会に参加された方も、セミナーの内容は衝撃的で、効果がすぐに実感できたと言っていました。

この「原体位」は知っているだけで、強くなれるなんともお得な情報でした。

 

そして、「原空位」は、試合で意識して使うことは出来なかったものの、

ゆっくりと練習している範囲では、とても有効なことが分かりました。

 

「原体位」に対して「原空位」は、

「空間の位置を変えないこと」なので、

例えば相手を推す場合、両手が相手の肩に触れている状態であれば、その位置は変えません。

逆に、自分の身体の位置を変えます。

当然、身体の位置を変える時「原体位」は保ったままです。

先ほどの例でやっていたように、肩から先の状態は変化していますが、それ以外の部分の構造は保っている状態です。

そして触れている位置は変わらないまま、体の位置を少し変化させて、再度推してみると、

これがびっくりする位簡単に相手を崩すことができます。

受けていると、まっすぐ相手を支えていると思ったら、急に横から推されるような不思議な感覚でした。

 

以上が「原体位」と「原空位」の説明でした。

簡単にまとめると、

原体位は、体の構造を保つこと。

原空位は、空間の位置を保つこと。

非常にシンプルで理解しやすいものでした。

 

王先生はセミナーの最後にこんなことを仰っていました。

 

「1日で全てが出来るようになることは不可能だけど、正しい知識に従ってやっていれば必ずできるようになります」

 

王先生の仰る通り、1日で完璧にこなすことは不可能です。

しかし、普段の套路練習や推手練習で意識することはできます。

今回のセミナーのように、簡単な推手の動作をお互いに行うことによって、
套路も正しくできているかその都度検証もできます。

 

今回の「原体位」と「原空位」は、誰でも簡単に理解でき、実感でき、上達できる方法で、

太極拳をやっているどの方にも恩恵のあるものだと思いました。

 

「原体位」と「原空位」、是非皆さまの練習にも取り入れてみてはいかがでしょうか。

 

最後に、今回ご指導頂いた王先生はじめ、台湾教練の皆さまの素晴らしいご指導とご厚意に感謝したいと思います。
そして今回は残念ながら来日に至らなかった呉栄輝先生、素晴らしい文化を伝えてくださった歴代の先生方、

セミナー参加の皆々様、運営に携わった全ての方々に感謝感謝です。

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